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ハイヒールを履くとねこ背になる?


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 美しいスタイルの黄金比は、1:1.618と言われています。これは、腰から上:腰から下の比率であり、やはり、脚が長いことは美しいスタイルに必要不可欠な要素のようです。

 そこでハイヒールですよね。ハイヒールは17世紀より用いられて、現代では約6割の女性が愛用しています。(Hsue BJ, 2009)。

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 ちなみに、ハイヒールの理想的なヒールの高さは、"身長÷30"であり、さらに大人っぽさをだすには"身体÷30+2cm"が好ましいようです。

 

 ですが、ハイヒールを履いて美しいスタイルを手に入れても、姿勢が悪くなってしまっては本末転倒です。そこで、今回は「ハイヒールを履いているとねこ背になるか?」というテーマについて考えてみたいと思います。

 

 結論から言うと、「中高年者の習慣的なハイヒールの着用は、ねこ背の原因になる可能性がある」ということです。それでは、ハイヒールを履くことによる姿勢、歩行への影響について考察していきましょう。

 

Table of contents

 

 

◆ ハイヒールによる姿勢への影響

 

 この写真はハイヒールを履いた場合のレントゲン写真です。やはりハイヒールを履いたほうがスタイルがよく見えますね。

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 しかし、一見、スタイルはよく見えますが、ハイヒールを履くことによって体が前方へ倒れないように無意識に代償してくれる(頑張ってくれる)身体の部位があります。それは、腰椎と骨盤です。

 では、どのように腰椎と骨盤は体が倒れないように頑張るのでしょうか。これには研究者の間でも以下のように結論が分かれ、未だに議論がなされていました。

ハイヒールを履くと、

・腰椎の前弯が強まる or 弱まる?

・骨盤が前傾する or 後傾する?

 なぜ、この二者択一について、今まで議論されてきたかというと、体表からマーキングする研究手法が多く用いられたことが原因とされています。この方法では、マーキングによるズレの問題があり、結果にバラツキがあったようです。

 そこで、2015年、Dai M氏らは、レントゲンを用いた骨形態学的分析を行いました。その結果、ハイヒールを履くことで、

・腰椎の前弯は強まる

・骨盤は前傾する

ことが示されました。この研究結果により、ハイヒールによる姿勢変化の議論に一定のコンセンサスが得られました(Dai M, 2015)。

 この結果からは、ハイヒールを履くことによる姿勢の変化が、ねこ背に寄与する可能性は少ないように思えます。

 しかし、この研究は、被験者が14〜17歳と若年者を対象としており、中高年者では同じ結果になるとは言えません。それは、若年者にくらべ、中高年者では腰椎の前弯角度、腰椎の可動性が減少するからです。下の図は、上から腰椎の前弯角度、腰椎の曲がる角度、腰椎の伸びる角度を男女別、年齢別に示しています(Drelschart M, 2014)。

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 男女とも加齢とともに腰椎の前弯角度が減少し、柔軟性も失われることがわかりますね。よって、中高年者では若年者のようにハイヒールを履くことによって生じる腰椎前弯の増強、骨盤前傾という代償運動が生じない可能性があるのです。ハイヒールによる中高年者への姿勢の影響については、今後の研究報告が待たれますね。

 


◆ ハイヒールによる歩行への影響

 

 ハイヒールを履いた歩行と通常の靴の歩行では何が異なるのでしょうか?

 それは背筋の活動と腰椎・骨盤の動きになります。

 

 背筋の中でも腰部の脊柱起立筋(以下LES: lumbar erector spinae)が最もハイヒールの影響を受けます。LESの筋活動は、歩行中は絶えず弱い活動をしており、歩行の初めと終わり、つまり踵を着いたとき(踵接地)蹴り出すとき(つま先離地)に強い活動が見られます。下の図は右足の歩行周期に見られるLESの筋活動を示しています。

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 踵接地時に活動する理由は、踵を着いたときに体が前方へ倒れる(慣性力)のを防ぐためです。つま先離地時に活動するのは、脚を降り出す準備として、骨盤を引き上げるためです(Waters RL, 1972)。

 では、ハイヒールを履くことによって、LESの筋活動はどのように変化するのでしょうか?まず、歩行周期全般において筋活動が増加します。また、踵接地時とつま先離地時の筋活動が増加するとともに、活動するタイミングが早まります

 

-なぜ、LESの筋活動が変化するのか?

 ハイヒールを履くことによって身体の重心の位置が変わります。通常、歩行時の重心は、おへそのやや下にあるのですが、ハイヒールを履くと前方(Snow RE, 1994)および上方(Lee CM, 2001)に重心が移動します。これにより、体が前へ倒れないよう、また不安定な姿勢を固定するようにLESの筋活動が強まるのです。

 また、ハイヒールを履くと脚の長さが長くなるため、踵を着いたときに地面から受ける衝撃(床半力)が大きくなります。そのため、体が前方へ倒れる力(慣性力)も大きくなります。これに抗する戦略として、LESの筋活動を増加させ、その衝撃を受ける準備をするために、早いタイミングで活動するようになるのです。そして、つま先離地時も脚の長さが長くなったことによってより骨盤を引き上げようとLESが早く強く活動するのです(Bird AR, 2003)。

 このようにハイヒールを履くことでLESは歩行中、筋肉の緊張感を高め、踵接地時とつま先離地時に通常よりも早いタイミングで強く活動するようになるのです。


 次にハイヒールを履くことで歩行時の腰椎と骨盤の動きはどのように変わるのでしょうか?Mika Aらは、若年者と中高年者を対象にしてハイヒールによる腰椎、骨盤の運動への影響を調べました。

 その結果、若年者では、腰椎の前弯を強め骨盤を前傾させることがわかりました。これは、ハイヒールを履くと、踵をつくときに受ける衝撃が強くなるため、この衝撃を受け止めるために、腰椎の前弯を強めることでクッションの役割を担っていると考えられています。

 しかし、中高年者では全く異なる反応が見られました。中高年者では、歩行時に腰椎の前弯が減少し、骨盤は後傾するのです。そのため、踵をつくときの衝撃は、LESや周りの靭帯で吸収しなければならず、筋疲労や腰痛の原因になりやすいことが示唆されています。また、この要因として、加齢にともなう腰椎や骨盤の柔軟性低下が挙げられており、加齢特異的な体の使い方の変化として注目されています。

 

 このように若年者では、ハイヒールを履いていても、腰椎の前弯を強め、骨盤の前傾を行うことで地面からの衝撃を吸収し、筋やや靭帯への負荷を少なくする歩行戦略を用いることができます。しかしながら、中高年者では腰椎の柔軟性の低下から若年者のような歩行戦略が使えず、前弯が減少し、骨盤を後傾させるという特異的な歩行戦略を用いるのです。このような歩行戦略では、LESに生じる負担が増強し、筋疲労やオーバーユース(使い過ぎ)による機能不全につながることが予測されています(Mika A, 2012)。

 

 さて、前回、LESの機能不全はねこ背の原因になることを考察しました。

  『なぜ、ねこ背になるのか?

  『ねこ背の原因は背筋の霜降り化?

 よって、ハイヒールによるLESの機能不全がねこ背の原因になる可能性は高いと推測されますが、まだ研究で明らかになっておりません。なので、ハイヒールを履いてるとねこ背になるか?という問いの答えは、あくまで推測(speculation)であり、可能性となります。

 ハイヒールは、LESの筋活動を変化させる。特に中高年者では、腰椎・骨盤の可動域が少なく、LESへの負担が強くなり機能不全を生じやすい。よって、ねこ背になる可能性がある。という答えになります。

 中高年者でハイヒールを長時間にわたって履かれる場合は、LESのケアとともに、腰椎の柔軟性を維持することが、綺麗なスタイルを保つ秘訣かもしれませんね。

 

 

◆ 読んでおきたい記事

ねこ背シリーズ①:ねこ背になると歩き方も変わる?

ねこ背シリーズ②:ねこ背になると生活がつまらなくなる?

ねこ背シリーズ③:「背が低くなったんじゃない?」と言われた要注意!

ねこ背シリーズ④:ねこ背になると転倒しやすくなる 〜大規模研究による検証〜

ねこ背シリーズ⑤:ねこ背になると転倒しやすくなる 〜本当の犯人は?〜

ねこ背シリーズ⑥:ねこ背になると転倒しやすくなる 〜腰がまっすぐになると…〜

ねこ背シリーズ⑦:自分でねこ背を計る方法(前編:科学的根拠の確認)

ねこ背シリーズ⑧:自分でねこ背を計る方法(後編:C7PL2.0をやってみよう!)

ねこ背シリーズ⑨:ねこ背と骨盤の代償運動を理解しよう

ねこ背シリーズ⑩:なぜ、ねこ背になるのか?

ねこ背シリーズ⑪:ねこ背の原因は背筋の霜降り化?

ねこ背シリーズ⑫:ハイヒールを履くとねこ背になる?

ねこ背シリーズ⑬:ねこ背と柔軟性 〜腰椎の柔らかさが大事〜

ねこ背シリーズ⑭:ねこ背になると肩が上がらなくなる?

ねこ背シリーズ⑮:座る姿勢がねこ背の原因になる?

 

Reference

Hsue BJ. (2009) Kinematics and kinetics of the lower extremities of young and elderly women during stairs ascent while wearing low and high-heeled shoes. J Electromyogr Kinesiol; 19:1071Y8

Min Dai. (2015) High-heeled-related alterations in the static sagittal profile of the spino-pelvic structure in young women. Eur Spine J DOI 10.1007/s00586-015-3857-6

Marcel Dreischarf. (2014) Age-related loss of lumbar spinal lordosis and mobility – a study of 323 asymptomatic volunteers. PLoS ONE 9(12): e116186. doi:10.1371/journal.pone.0116186

Waters RL. (1972) Electrical activity of muscle of the trunk during walking. J Anat; 111(2); 191-199

Snow RE. (1994) High heeled shoes: their effect on center of mass position, posture, three-dimensional kinematics, rearfoot motion and ground reaction forces. Arch Phys Med Rehabil ;75: 568–76.

Lee CM. (2001) heeled shoes. Int J Indust Ergonom ;28:321–6.

Bird AR. (2003) The effect of foot wedging on electromyographic activity in the erector spine and gluteus medius muscles during walking. Gait Posture; 18:81〜91

Mika A. (2012) The effect of walking in high- and low-heel shoes on erector spinae activity and pelvis kinematics during gait. Am J Phys Med Rehabil; 91(5):425e34.