リハビリmemo

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体幹筋の廃用性筋萎縮を予防しよう


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 前回のエントリでは、廃用特異的に筋委縮する筋について池添氏らの研究報告を紹介しました。廃用により筋委縮しやすい筋は、脊柱起立筋や体幹深層筋(腹横筋・多裂筋)、大腿四頭筋腓腹筋・ヒラメ筋といった抗重力筋に多いことが明らかになっています。逆に腹筋や股関節屈筋などは筋萎縮が生じにくいという興味深い結果も示されました。

廃用によって筋萎縮しやすい筋とは?

 

 このような知見をもとに、臨床においても廃用特異的に筋萎縮が生じやすい筋にリハビリのリソースを集中すれば効率的な廃用予防が期待できます。

 

 では、どのようなトレーニングが廃用特異的な筋萎縮の予防に適しているのでしょうか?

 

 今回は、オーストラリアのカトリック大学で廃用による身体への影響について数多くの研究をしているHidesらの報告をもとに、体幹筋のトレーニングについて考察してみましょう。

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◆ 体幹筋の廃用性筋萎縮は回復するのに1年かかる?

 

 Hidesらは、MRIを用いて、14日間の長期臥床後の体幹筋の筋萎縮の回復過程を調査しました。臥床中に特別なトレーニング行わない場合、筋量が臥床前のベースラインに戻る期間は腸腰筋が14日であるのに対して、多裂筋は90日を経過しても十分な回復が見られませんでした(Hides JA, 2007)。

 

 筋電図を用いて長期臥床後の筋の収縮タイミングの回復を調査したBelavýらは、56日間の臥床後の脊柱起立筋の筋収縮タイミングは臥床後1年を経過しても回復していないことを明らかにしました(Belavý DL, 2010)。さらに、臥床により生じやすい腰痛は、脊柱起立筋の収縮タイミングの不全が腹筋との共同収縮を妨げるからであるとし、その影響は臥床後1年後でも改善しないことを報告しています(Belavý DL, 2007)。

 

 脊柱起立筋や多裂筋は、臥床中にトレーニングを行わなければ筋の量、質ともに長い回復期間が必要であることがわかっており、そのため臥床中からの廃用予防が重要になってくるのです。



◆ 背筋の筋萎縮に効果的な腹筋運動?

 

 では、どのような体幹筋トレーニングが効果的なのでしょうか?

 

 体幹筋の廃用特異的な筋萎縮は多裂筋や脊柱起立筋といった背筋群に生じます。一般的な背筋群のトレーニングは四つ這いや端座位などで行われることが多いですが、安静臥床している患者さんをベッド上で四つ這いにさせるのは実用的ではありません。やはり背臥位でトレーニングを行えるのが良いでしょう。

 

 Hidesらは、対象者を2つのグループに分け、60日間の長期臥床中にそれぞれ別のトレーニングプログラムを行い、多裂筋や脊柱起立筋の筋萎縮の予防効果を検証しました(Hides JA, 2011)。

 

 トレーニングは背臥位で主に腹筋のトレーニングを行うTFS(trunk flexor and general strength)と、端座位で前方リーチや立ち上がり動作など背筋のトレーニングを行うSMC(specific motor control)を毎日、30分ほど実施しました。

 

 筋量の評価は、臥床前後、臥床後14日と90日にMRIによって計測しています。

 

 その結果、多裂筋、脊柱起立筋の筋量はTFS,SMCともに臥床前と有意な差は認めず、両方のトレーニングで筋萎縮を予防する効果が示されたのです。

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Fig.1:Hides JA, 2011より引用改変

 

 この結果は驚くものでした。腹筋運動が主体のトレーニングでは、廃用特異的な背筋群の筋萎縮は予防できないはずです。これに対して、Hidesらは、腹筋運動は背筋群の共同収縮(co-activation)が生じることが示されており(Soderberg GL, 1983)、そのため背筋群の筋萎縮を予防できたのだろうと推測しています。

 

 また、MRIにより筋量とともに椎間板の状態も評価するとTFSはSMCよりも椎間板のボリュームが減少していることがわかりました。

 

 この所見から、Hidesらは、背筋群の筋萎縮の予防には椎間板への負荷が大きTFSよりも負荷が少ないSMCが推奨されると述べています。

 

 Hidesらの報告は臨床での背筋群のトレーニング方法についてヒントを与えてくれています。

 安静臥床している患者さんでは、主に背臥位でトレーニングを行うことになりますが、この時期では腹筋運動に伴う共同収縮により背筋群の筋萎縮を予防できます。しかし、過度な腹筋運動は椎間板への負担が大きくなるため腰痛などのリスクを伴います。安静度が端座位に移行できた場合は、端座位や立位で行うSMCのようなトレーニングに変更し、背筋群の筋萎縮を予防するのが良いのかもしれません。

 

 運動に伴うリスクを管理しながら効果的に廃用予防を行う観点からHidesらの報告は大変、参考になると思います。

 

 廃用症候群の予防は診療報酬でも評価されていますが、その予防方法のエビデンスは少ないのが現状です。今後のさらなる研究に期待するとともに、新たな知見を臨床で生かせるように本ブログでもキャッチアップしてご紹介していきたいと思います。

 

 

廃用症候群の科学

シリーズ①:廃用によって筋萎縮しやすい筋とは?

シリーズ②:体幹筋の廃用性筋萎縮を予防しよう

 

Reference

Hides JA, et al. Magnetic resonance imaging assessment of trunk muscles during prolonged bed rest. Spine (Phila Pa 1976). 2007 Jul 1;32(15):1687-92.

Belavý DL, et al. Influence of prolonged bed-rest on spectral and temporal electromyographic motor control characteristics of the superficial lumbo-pelvic musculature. J Electromyogr Kinesiol. 2010 Feb;20(1):170-9.

Belavý DL, et al. Superficial lumbopelvic muscle overactivity and decreased cocontraction after 8 weeks of bed rest. Spine (Phila Pa 1976). 2007 Jan 1;32(1):E23-9.

Hides JA, et al. The effects of rehabilitation on the muscles of the trunk following prolonged bed rest. Eur Spine J. 2011 May;20(5):808-18.

Soderberg GL, et al. Muscular function in chronic low-back dysfunction. Spine (Phila Pa 1976). 1983 Jan-Feb;8(1):79-85.

 

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